401 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 23:06:08 ID:0VSdBEBG0
前には敵のセンターバックが二人。
少し上がりすぎていた相手のサイドバックが俺と併走する格好だ。
味方は平山さんと辻尾さんの二人。
平山さんは中央で縦に走っている。辻尾さんはやや右サイドに開き気味。
サイドの苔口さんはまだ俺より後ろだ。どうする?
俺は自分で行くことに決める。スペースのある左サイドへ全力で進む。
一気にライン際までドリブルで持っていく。
追いついたサイドバックが中を切って俺を止めに来る。
目だけ動かしてゴール前を確認、相手選手も戻ってきているが、
その中でもぽつんと高い平山さんの頭が見える。
なるほど、ほんとにあの身長は放り込みやすい。
ライン際、単純にクロスをあげると見せかけてキックフェイント。
すかさず左足でボールを中に戻して、
右足でクロスをあげようとしたが相手がついてくる。
ならばもう一度だ。今度はさっきと逆に右足でボールをライン際へ押し出して左足を振る。
いける、と思ったボールはサイドバックが必死に伸ばした足に弾かれてラインを割った。
二度のフェイントで振り切った感触はあったのに、足が伸びてくる。
これがよくいう、足が思ったよりも伸びてくる、日本でやってるときとの感覚の違いか。
だがボールはこっちのコーナーキック。まだうちのボールだ。水野さんが走っていく。


402 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 23:13:57 ID:0VSdBEBG0
このメンバーでのセットプレイの練習なんて、まったくしていない。
平山さんがファーにポジションどり。辻尾さんはだいたいエリア中央。
誰かから指示が来るかと思ったが、声がかからなかったので勝手にエリア中央外で待つ。
水野さんのコーナーキック。助走と同時に目の前で選手たちが、
ゴールできるポジションを求めて動きだす。
平山さんがファーからゴール中央へDFをふりほどきながら走る。
水野さんが巻きながらその平山さんの頭にどんぴしゃであわせるボール。
しかし、DFにおされて平山さんがほんのわずかバランスを崩す。
頭の少し上をボールは通り抜け、平山さんが空けたファーのスペースに
移動していた俺の目の前に、こんにちは、と挨拶しながら落ちてきた。
これは決める。
俺は何の躊躇もなく、ワンバウンドしたボールを右足に全身の力を集中させてぶっ叩く。
足の甲に残るジャストミートの感触。
ボールはあっと言う間にゴールへ突き刺さった。
審判の笛。俺は予想外の失点に白けた雰囲気が漂う相手チームを尻目に、
素早くゴールネットからボールを回収する。
まだまだ試合は終わってないんだぜ。悪いけどもう少しつきあってもらうよ。
平山さんがテレビで見慣れたあの笑顔で祝福してくれる。
他のメンバーも集まってきて喜びをわかちあう。俺の回りに輪ができる。

405 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/08(日) 11:16:45 ID:ObVa8G/o0
大丈夫、チームのムードがよくなってきた。前半の雰囲気とは違う。
後半は互角にやれるぞ、という気持ちがみんなから伝わってくる。
おこがましいが自分のプレーが流れを変えた、という実感があった。
そこで俺は唐突にモニカのことを思い出した。
この前の代表戦、俺たちは無邪気にモニカのために、とハッスルしていたが、
そんな俺たちの姿をモニカはどんな気持ちで見ていたんだろう。
モニカ自身は内心では、不安な気持ちでいたんじゃないだろうか。
いくら類い希なテクニックを持っていても、結局は女の子。しかも相手は代表だ。
自分のプレーが通用するかどうか、という不安がまったくなかったはずがない。
しかも俺たちは無責任にモニカなら通用するだろうと期待している。
そういう環境はモニカにとって精神的な負担のかかる状況じゃなかっただろうか。
でも、モニカはそんな不安は、これっぽっちも表に出さなかった。
余裕綽々の顔で、代表をからかってみせた。
そんなモニカの姿を見て、モニカが通用する姿を見て、
俺たちは勇気づけられていたんじゃないか?
モニカのプレーを見て安心して、自分たちを信じてサッカーができたんじゃないか?
だから、あれだけのスコアを残すことができたんじゃないのか。
いま、自分が同じ環境に置かれて、はじめてモニカの気持ちがわかった気がする。
モニカは俺たちのために、プレーでチームを鼓舞し続けてくれた。
この前半で大量失点してしまった試合、
俺がこの状況でやらなければいけないのは、
この前の練習試合でモニカが俺たちにしてくれたことと同じだ。
闘う姿勢を見せ続ける。自信を持ってプレーする。それがチームに力を与える。


406 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/08(日) 11:22:31 ID:ObVa8G/o0


結局試合は4−6で終わった。
その後は拮抗した試合になり、相手に追加点も奪われたが、
俺たちも、なんとか2点を返すことができた。
もちろん負けは負けだ。6点とられた事実は重い。
だが、俺自身は試合の内容に満足していた。
俺はびびらなかった。今日の俺は逃げなかった。
「いいシュートだったね」
ベンチに引き上げる途中で、平山さんが俺の頭をなでる。
俺は笑顔で礼を言う。
代表に選ばれてからはじめて、素直に笑うことができた気がした。
上を見上げれば広がるブラジルの空。
モニカがここにいてくれたらなあ。
でも、モニカはオーストラリア遠征の真っ最中だ。
ふたりを隔てる距離はとてつもなく遠い。
そばにいてくれたなら、
今日の試合について自慢できたのに。いろいろ話せたのに。
きっとモニカならいつもの笑顔で喜んでくれる。
モニカ、とりあえず試合に出たよ。点もとったぜ。
モニカがそばにいない寂しさを少し感じながら、
ブラジルの空の下、俺は心の中でモニカに語りかけた。




407 名前:U−名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/08(日) 14:14:33 ID:w+vRo/7o0
「モニカに恋して」

409 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/08(日) 16:31:18 ID:8VpE0o+H0
「タカシとゆかいな仲間達」