392 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/06(金) 22:58:47 ID:e7/VtfLI0
審判の確認が終わったのを見届けて俺はゆっくりとピッチに入る。
芝が薄い感じがする。これじゃボールはよく跳ねて、スピードも上がるだろう。
システムは前半と同じ3−5−2のままだ。
トップ下を務めていた中山さんの後に俺が入る。
前の二枚は辻尾さんと新しく入った平山さん。
俺はもう一度自陣をぐるりと見渡して、メンバーを確認する。
DFにジェフの水本さん、中盤にはセレッソの苔口さんら、
Jでも定位置を確保しつつある顔が見える。
そうそうたる顔ぶれの中、この俺がトップ下として指令塔を務める。
なかなかわくわくできる話じゃないか。
後半開始の笛。
俺は相手の出方をうかがいながらボールを回す。
ロッカールームで監督から修正は入っているのだが、
やはり前半のショックが抜けていないらしく、
うちのボランチとDF陣の腰が完全に引けてしまっている。
風が草木を揺らす音におびえるかのように、理由もなくプレーが消極的だ。
どうするか。俺は判断に迷う。
が、迷ってる暇を与えてくれるほど、サッカーのピッチというのは平和な場所ではない。
相手のドリブル。見ていてそんなにキレがあるとも思えないのだが、
なまじ守る側の腰が引けているだけに、やすやすと突破されてしまう。
カバーに入った水本さんが強引に止めるしかなくなってファール。
前半の悪い流れを切れていない感じだ。

393 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/06(金) 23:11:39 ID:e7/VtfLI0
ゴールラインから少し入ったところでのFK。嫌な位置のセットプレイだ。
立ち上がりということもあって、辻尾さんだけ残して、全員エリア近辺まで下がる。
平山さんも戻ってきて、ヘディングではじき返す構えだ。
相手が蹴る。俺や平山さんの頭上を越えてファーに飛ぶボール。
ボールの飛んだ方向を見ると、先制点をとった11番のマークがはずれ気味だ。
DFがなんとか防ごうとするが、体勢を作った段階で負けていては話にならない。
スピードのあるヘディングシュートが、ゴールネットに突き刺さった。
5点目。しかも後半開始早々の失点。
DFのメンバーは顔面蒼白で言葉もでない様子だ。
俺は黙ってボールを拾い上げた。この雰囲気は声でなんとかなるレベルではない。
プレーで、俺たちのペースに引き込むしかない。
どうせ次の出番があるかどうかわからない立場、
たとえ後半途中でガス欠になっても構わないから、
自分のやりたいようにやらせてもらおうと心に決める。
どうせ戦術上の指示なんて受けてないんだし。
試合再開のキックオフ。

395 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 11:49:42 ID:PFVYI1Re0
下げられたボールを前線へけり込む。辻尾さんが落下点めがけて走るが、
それより先に相手の中盤がキープ、ワンタッチで回す。
平山さんのチェック。それを交わしてボールは左サイドへ。
うちの両サイドが少し引き気味になっている分、スペースがある。
「苔口、詰めろ、詰めろ!」俺が大声で指示を出す。
苔口さんがちらっと俺を睨むが、ボールを持ってる相手にチェックに行く。
余裕綽々の相手は苔口さんを相手にせず、いったんボールを横パス。
そこは俺の番だ。懸命にダッシュして相手との間合いを詰める。
気づいた相手はセーフティにいったん、DFにボールを下げる。
俺はさらにそのボールを追う。敵陣から鉄砲玉のように飛び出してきた俺を、
相手のディフェンダーがカミカゼでも見たかのように面食らった顔でみる。
相手の横パス。俺はそれも追いかける。
平山さんも辻尾さんも完全に追い越している。
誰かが俺の名前を呼んだ気がするが、無視した。
プレスの連動性や、約束事なんて知ったこっちゃない。
どうせ戦術練習なんてしていない身だ。ただボールを追う。
無抵抗のまま、殺られるなんてごめんだ。
相手の軽い切りかえしに俺はバランスを崩す。
負けるもんか。くらいつけ。俺は後ろから相手にまとわりつく。
代表との試合でモニカに怒鳴られたとき。
相手に背中を見せたことを怒られたあの時から、
俺はピッチに立ったら逃げちゃいけない、とわかったんだ。

396 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 11:51:50 ID:PFVYI1Re0
ハーフウェーラインからボールが入ってくれば、
庭を守る番犬よろしくひたすら追いかけ続ける。
さすがにサッカーの本場、ブラジルの選手。ボールは奪えない。
だが、それを繰り返しているうちに、
他のメンバーも積極的に間合いを詰めるようになった。
さっきまで仕掛けられるのを恐れて、間隔を取っていたのが、
積極的に相手の足元に足を入れるようになってきた。
すると相手も簡単に前を向けなくなり、縦のパスが出せなくなる。
必然的に横パスやバックパスが多くなる。
ボールキープこそできないが、試合の流れが幾分落ち着いてきた。
この調子だ。もう少しだ。
相手の中盤の選手にくさびのパスが入る。
すかさず間合いを詰める。後ろに戻すか、と思ったらステップを踏んで抜きにきた。
後ろにばかりパスを出すのはもう飽きた、といわんばかりの動き。
迫ってきた俺を簡単にターンして交わそうとする。
だが予想していたとおりプレーが軽い。大量点で微妙に相手の集中も切れている。
ターンの方向を読み切って足を入れる。
すぱーんときれいにボールだけが足に引っかかった。
しまった、という相手の動揺が空気を伝わってくる。
瞬時にドリブル開始。ここは一気にカウンターだ。
ボールを奪われると思ってなかった相手は、
知らず知らずのうちに前がかりになっている。
きびすを返して戻ろうとするが、油断していた分、こっちのほうが早い。



397 名前:U−名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 15:54:38 ID:DXISUy9y0
この小説のタイトルは何ですか?

398 名前:U-名無しさん [sage] 投稿日:2005/05/07(土) 19:05:51 ID:fDpPCkQr0
題名か、なんだろうなぁ。
「青空の向こう側」とか

399 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/05/07(土) 19:47:46 ID:48cWAbjB0
正直、この小説を読んで泣きそうになっている俺がいる。
なんでか分らん。

懐かしいような原点を見たような、そんな感じだ。