第26話 合宿開始
339 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/22(金) 22:54:07 ID:HWkByy530
「だーかーらーっ!お前ら、なんでここにこんないるわけぇ?」
森本が大声を出すが、部屋にいる誰も聞いちゃいない。
誰からも反応がない、とわかった森本は俺のほうを睨む。
お前からもなんか言えよ、という表情だ。
俺は黙って肩をすくめる。俺が言ったって効果があるとも思えない。
普通のツインに男がひぃ・ふぅ・みぃ・・・、
数えてみたら俺たち含めて10人もいやがった。むさくるしいわけだ。
テレビにつないだプレステでウィイレやる者あり、それを眺める者もあり。
ひとりでPSPやってる奴もいれば、ただひたすら本を読む者もいる。
ここは一応、俺たちの部屋のはずなんだけどなぁ・・
メンバーの中でたぶん一番年齢が近いからということなのだろう、
俺と森本は同じ部屋に割り振られたのだが、
いつのまにかみんなの居場所になってしまっている。
別に部屋でひとりで何かしようということではないのだが、
みんなが自分たちの部屋でのんびりとしてるのを見ると、
森本がしゃくにさわるのも、わからないでもない。
もちろん森本も俺もそう真剣に腹を立てているわけではないのだが。
俺は窓から外を見る。広がっているのは見慣れない異国の町並み。
ああ、ほんとに来たんだなあ・・。俺は実感する。
ここ数ヶ月で俺はそれまでの人生からは考えられないほどいろんな経験をした。
そしていま、オランダにいる。2005ワールドユース。
それが俺たちがオランダに来た目的だ。
340 名前:U-名無しさん[] 投稿日:2005/04/23(土) 00:37:17 ID:B6iJSWf2O
キタ━━(゚∀゚)━━!!待ってました!頑張れ!
341 名前:U-名無しさん [sage] 投稿日:2005/04/23(土) 03:53:16 ID:cL8LRL540
キタ━━(゚∀゚)━━!!
WY編か?
激動の数ヶ月間の間に主人公とモニカタンの仲の進展はあったのか?
342 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/23(土) 14:38:26 ID:4HDxDE8NO
アジア予選編もあるぜよ。
346 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/24(日) 22:54:15 ID:5EPChuHE0
「また、モニカちゃんのこと、考えてたんだろー」
たむろしてる連中を叩き出すのをあきらめたらしい森本が、
今度は俺にちょっかいを出してきた。
俺は馬鹿は相手にしない、とばかりに無視する。
「しっかし、モニカちゃんのパイオツ、最高だよなあ・・
もうぷりぷりって感じで・・あんなのでこすられたら、俺、すぐイッチゃうよ」
軽く森本に蹴りを入れてやった。よく見ると森本の奴、
マジで目が妄想モードに入ってやがる。ほんとコイツ、アホだ。
ヴェルディがメディアに森本のインタビューをほとんど許可しないのは、
建前は森本の健全な成長のため、ということになってるが、
その実、どんなアホなことをしゃべるか怖くてしょうがないからだ、と
カレンがそっと教えてくれたのを思い出した。
最初は冗談だと思ってたが、一緒にいるとだんだん本当に思えてくる。
もっとも、森本の名誉のためにいえば、
この環境でその手の話が出ないほうがおかしい。
考えてみて欲しい、むさ苦しい男ばかり顔をつきあわせて、
やることは練習場と試合会場とホテルの往復だけ。
たまにはスタッフが気を使って、観光に連れ出したりしてくれるが、
別に自分で行きたい場所を決めてコースや日程を組むわけじゃない。
無理矢理気分転換するために、疲れる散歩に連れていかれる、と
いうのが選手の立場としての偽らざる実感だ。
347 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/24(日) 23:01:24 ID:5EPChuHE0
サッカーをやっていないときは、
ひたすらホテルの中でミーティングか体の手入れか、あとはごろごろするだけ。
以前、日本代表のトルシエ前監督だったと思うが、
選手はテレビゲームばかりやっていて、サッカーの話をしないと怒っていたが、
他にやることがない、というのが、俺の正直な感想だった。
もちろん練習後や話の流れによっては、
ベッドの上で輪になってサッカーの話をすることもあるが、
一日中サッカーの話だけしていろ、というのも無理がある。
必然的にちょうどいまのように、集団でだらだらすることになってしまう。
その一方で、俺たちは闘っている集団だ。
端から見ればのんびりしてるように見えても、
ひとりとして集中の糸を完璧に切っているやつはいない。
消防士が仮眠しているようなものだ。寝ているようにみえても、
サイレンが鳴れば瞬時に戦闘モードに突入することができる。
そのためのエネルギーを各自が体の中に溜めこんでいる。
増して活気あふれた俺たちの年頃。こういう生活にはそれなりにストレスがある。
森本の下品な「振り」も、なかば集団の中での役割みたいなものだ。
それを俺も含めて、みんな承知している。
妄想モードに入っている森本は放っておいて、ぼんやりと窓の外の景色を見る。
だが、森本は俺のことを放っておいてくれない。
350 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/25(月) 01:26:09 ID:BeQoBA9O0
森本=春原陽平
で固定されちまった……
351 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/25(月) 05:47:01 ID:5LVSlMNf0
タカシは選ばれなかったか・・・
354 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/25(月) 23:13:29 ID:p74z2ysm0
「おい、もうモニカちゃんとはお前やっちゃったのか?
あの巨乳をモミモミしちゃったりしたのか?」
アホか、お前。
「別に彼女でもなんでもねえもん。そんなわけねえだろ」
一応、この誤解してるバカにそこだけははっきりいっておく。
なーんだ、根性のない野郎だな、と
森本はさも俺が甲斐性なしであるかのように言いやがる。
「ああ、モニカちゃんと試合してみてえな。
おい、今度うちのサテライトと練習試合やろうぜ。
お前の彼女でないなら、俺がぜひお近づきになってだな・・・
俺のテクニック見せたらモニカちゃんももうすぐに俺の虜だな。
昼間は足のテクニック、夜は指のテクニックも見せちゃったりして」
俺はもう一度森本に、今度は少し強めに蹴りを入れる。
こいつのことだ、同じピッチに立ったら
絶対にセクハラまがいのディフェンスをするに違いない。
今後どんなことがあっても、こいつだけは
モニカに近づけないようにしようと俺は心で誓った。
「なーに、さわいでるんだよ」
俺と森本がじゃれていると、さっきまでベッドで横になって
雑誌を読んでいたカレンが起き上がっている。
「また森本が発情してるのか」とカレンが笑った。
355 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/25(月) 23:19:29 ID:p74z2ysm0
代表との練習試合で宮本を見たときも、そのかっこよさにしびれたが、
ルックスだけとったらカレンのほうが上かもしれない。
一緒にいて近くでその顔を見ると、
しみじみと容姿ってやつについて考えさせられる。
俺や森本と同じ人間という種族だなんて思えないくらいだ。
カレンと付き合う女性はどんな気持ちなんだろう。
こんな整った顔が目の前にあったら、ほんとうに夢見心地だろう。
「悪かったな、誰かさんみたいなモテモテ野郎とは違うんだよ」
森本が言い返す。
「そういえば、カレンは彼女いたよな?」
森本の問いかけに、
「ん。いるよ」とカレンがさらりと返す。
その余裕が絵になっている。きっと俺や森本が一生手に入れることのない余裕だ。
なんとなく俺は森本と顔を見合わせる。
一瞬の沈黙の後、ああ、これだからモテ男くんは嫌だ、と森本は大げさに首を振った。
「大丈夫だよ、森本も彼女なんかすぐできるって」とまた別の声。
声のしたほうを向くと、平山さんが文庫本を片手にこっちを見ていた。
2年前のUAEワールドユース。そして去年のアテネオリンピック。
いつもひとつ上の世代に混じってメンバー表に名を連ねてきた、
日本の次代を担うセンターフォワード。
だが一緒にいる平山さんは、そんなことを感じさせないほど物腰が柔らかい。
このチームでも俺や森本の面倒を見ているのはなんだかんだいって平山さんだ。
きっとこの人は兄貴肌なんだという感じがする。
子どもと触れ合う先生みたいな仕事はきっと向いているに違いない。
「ていうか相太に言われても、あまり信憑性ないよ」
森本の突っ込みに思わず平山さんが苦笑いする。
359 名前:U-名無しさん[sage] 投稿日:2005/04/26(火) 23:23:41 ID:GIqyPkF/0
森本はチームの誰でも呼び捨てだ。
俺はカレンはなんとなくフランクに呼び捨てにできるのだが、
平山さんにはつい「さん」がついてしまう。
別に二人に対する気持ちに違いがあるわけじゃなくて、なんとなく雰囲気なのだが。
「ていうか、相太は彼女できたの?」
さらに鋭さを増す森本の突っ込みに平山さんは苦笑いしながら首を横に振る。
だめじゃーん、と森本がベッドの上で後ろにひっくり返る。
その姿を見て平山さんとカレンが優しく笑う。
ガキ大将でやんちゃ坊主の面影が強い森本。
ルックスはもちろん立居振る舞いまで含めて典型的な「いい男」のカレン。
気配りにたけ、全体に目を配るいい兄貴分の平山さん。
これほどまでにキャラの違うフォワード陣も珍しいな、と思う。
プレイスタイルだってみんな違う。
高さの平山さんに、スピードのカレン、テクニックの森本。
だが、それがかえって三人のコンビネーションをよくしている。
中盤の選手にしてみると、これだけバラエティに富んだ
フォワードの組み合わせは使いがいがあるというものだ。
森本と平山さんは何か話を続けている。
俺はもう一度窓の外を見る。見慣れない景色。
モニカはいま、日本でどうしているだろう?