246 U-名無しさん sage 2005/03/31(木) 22:57:16 ID:Doeq2VRp0


 朝、おふくろにねだった小遣いで、
 俺は通学路の途中のコンビニで、スポーツ新聞を全紙買った。
 そしてようやく俺は、昨日の試合が俺の想像を遥かに超える
 ビッグニュースとして扱われていることを理解した。
 政治的な意味からも注目を集めている北朝鮮戦の直前ということもあるだろう。
 大事な試合を控えた代表が高校生に負ける、という出来事のわかりやすさもあるだろう。
 しかしなんといっても、このニュースの魅力はモニカの存在だった。
 まだ17歳の女子高生が代表をばったばったと斬り捨てた痛快さ。
 落ち着いて考えればマスコミが飛びつかないはずがなかったのだ。
 驚くべきことに、新聞はもうモニカについても情報を手に入れていた。
 ある新聞ではこんなふうに書いていた。
 「アメリカの女子サッカー関係者の間では、
 先日引退した女子サッカーの第一人者の「ミアハムの継承者」として、
 次代の女子サッカーを担う選手として期待を一身に集めていたという。
 アメリカのサッカー協会首脳が、
 「アメリカはついにサッカーにおいても、世界を驚嘆させる光り輝く才能を産み出した。
 ただその才能は、女性の体に宿っている」と性差別すれすれの表現で惜しんだほどだ」


247 U-名無しさん sage 2005/03/31(木) 23:00:33 ID:Doeq2VRp0
 また別の新聞。
 「若年層の発掘に定評のあるプレミアリーグとブンデスリーガのあるビッグクラブが、
 中学生時代の彼女を見て、すぐさま契約のオファーを出したという秘話がある。
 女性だということに気づいた彼らは、オファーを取り下げたが、
 それでもあきらめきれないという表情だったという」
 「女子サッカーの人気が高いアメリカでも、近年は財政難による女子プロリーグの休止、
 そしてスター選手だったミアハムの引退と、厳しい状況になっている。
 それを打破し、再び女子サッカーを盛り上げるための起爆剤として、
 モニカちゃんには多くの期待がかけられていただけに、
 両親の仕事の関係で日本へ移住したことについて、
 アメリカの女子サッカー関係者のショックは非常に大きいものがあるようだ。
 「プレイ面はもちろん、あのルックスが産み出すスター性。
 戦力と人気、どっちの面から見ても大きな損失だ」と、ある関係者は沈鬱に語った」


258 U-名無しさん sage J暦13/04/01(金) 22:52:11 ID:ihBSwHC/0

 机の上に広げたスポーツ新聞をひととおり読み終わると、
 思わず口からため息がもれた。
 知らなかった。そこまでアメリカで期待をかけられていた選手だったなんて。
 一緒にいるようになってしばらく経つけど、
 俺はアメリカ時代のモニカのことをなんにも知らなかったのだ。
 ただ記事の内容はよく考えれば当然のことだった。
 あれだけのテクニックを持っている選手が、埋もれるなんてことはありえない。
 新聞を広げると、またモニカについて書いた記事があった。
 「もちろん、これほどの選手が日本に来たことについて、
 日本サッカー協会も既に情報は収集していた模様だ。
 アメリカでの代表歴がなく、なでしこジャパン入りに支障がないことも確認済みだ。
 日本代表との練習試合では、女子代表の上島監督もさいたま市に足を運び、
 モニカちゃんのプレーを直接その目でチェックした。
 明言こそしなかったが、目的がモニカちゃんだったのは間違いない」
 なんか事態の急展開というやつについていけない。
 口から思わず深いため息がもれる。
 学校の中も今日は朝から大騒ぎだ。俺も外にいるとあちこちから
 声をかけられっぱなしなので、こうして教室の中の自分の机に避難している。
 同級生の話を聞くと、インターネットでもすごいことになっているらしい。
 有名なインターネットの掲示板では、昨日の試合の様子がニュースで流れるや否や、
 ジーコ解任派と擁護派が激論を繰り広げはじめ、
 北朝鮮戦はもうだめだ、ワールドカップもだめだ、という悲観論が一気に蔓延。
 日本のサッカーこれでいいのか、と議論は果てしなく広がり続け、
 もはや収拾のつかない状況になっているらしい。
 その一方で、モニカの人気もものすごいらしく、
 「モニカタソで(*´д`)ハァハァするスレ」というモニカについて話すトピックができると、
 あっという間にすさまじい量の書き込みがあったらしい。
 歯車というのは回りだすと止まらないものなんだな、と妙なところで実感した。


259 U-名無しさん sage J暦13/04/01(金) 22:58:31 ID:ihBSwHC/0
 そこに一段と騒がしい声。顔を上げると、モニカが教室の中に入ってくるところだった。
 一番後ろに並んでいる俺とモニカの机。モニカが机の間を歩いてくる。
 顔を見ると唇をきゅっと結んでいる。ご機嫌斜めのようだ。
 どうした?と声をかける。それくらいの言葉は雰囲気で通じる。
 モニカは俺の顔を見ると、表情を和らげて、オハヨウといった後、
 眉を寄せて、カメラを持って写真を撮る構えをした。
 ん??意味がわからず俺がきょとんとしていると、
 モニカと一緒に入ってきた女子が、
 「モニカちゃん、知らない人にいきなり写真を撮られたみたいなの。
 マスコミなのか、それとも関係ないただの人かわからないけど・・・」
 いきなり写真を撮られりゃ誰だっていい気はしない。
 俺たちは芸能人じゃないんだし・・と思いかけて、この大騒ぎに気づく。
 もうあの騒ぎの中にいる連中にしてみれば、モニカは芸能人と変わりがないのだろう。
 俺の気分がちょっと暗くなる。そんな自分自身のもやもやを吹き飛ばすように、
 俺はモニカに笑って喝を入れる。
 「そんなの気にすんなよ、元気出そうぜ。今日も練習サボるなよ」
 言葉はわからなくても意味は通じる。モニカがかすかに微笑んだ。